初めてのインド(デリー旅行)で気になったことのアレコレを整理する試みの二回目は、見聞きした範囲の交通事情について。
2019年1月現在、デリーは空気が汚い都市in the worldの上位ランカーだ。「大気汚染 都市 ワースト」くらいでググるといろいろ出てくる。
www.google.com
夕暮れのインディラ・ガンジー国際空港にむけて降下する機内から見た、茶色いもやが大地一面を覆っている光景はなかなかのものだった。羽田便の場合はどちらかというと灰色の空気の底に降りていく感じなのだけど*1、デリーの場合はもっと空気に実体感がある。ボーディングブリッジを歩き出して、デリーの空気を吸い込んだ最初の感想は「あ、肺の奥まで何かが入ってくる」だったし。
その大気汚染、11月から1月がもっとも厳しいらしい。
車の増加とその結果である交通渋滞が引き起こす排気ガスの大量発生が基調をなすのはもちろんだとして、それに加えて舗装道路自体から出る粉塵、非舗装道路や路肩(ここも非舗装だ)から舞い上がる土埃、これらの実体感のある粒子が乾期の乾いた大気の中をいつまでも舞い続けている*2。さらにヒンドゥー教徒がお祭りに使う花火から出る煙がさらに追い打ちをかけるようだ。
花火?
https://www.mumbai.in.emb-japan.go.jp/jp/chiananzenjyouhou/anzenjyouhou/2015/10/2015.10.15.pdf
(同資料より引用)
デリーでは,例年,雨期が終わり気温の低下する10月頃から1月下旬頃まで,大気汚染が顕著となる傾向にあります。
特に,毎年10月下旬から11月上旬(2015年は11月11日の予定)に行われるヒンドゥー教の祝祭であるディワリ(Diwali
)前後に市内のいたる所で使用される大量の花火によって,大気汚染が助長されることが懸念されています。
なるほど、インド恐るべし。
ああと、大気汚染は枕であって、今回は交通事情編だ。
1.メトロ
なぜ大気汚染が枕になるかというと、交通渋滞の解消をもくろんで企画、建設されたのがメトロだから。
ja.wikipedia.org
ワタシが乗ったのは、オレンジラインを空港からNew Dehliまでと、イエローラインをニューデリーからSaketまでで、メトロのごく一部なんだけど、それでも日本の地下鉄との違いに驚くことになった*3。
まず天井が高い。上掲のwikipediaのエントリにあるメトロの写真のとおりで、Saketなんていう住宅地の駅であっても同じく天井が広々しているのだ。そして通路の幅も本当に広い。複数の路線が乗り入れているNew Dehliなんか、ところどころに広場まである。
つまりデリーのメトロは、地下に巨大な空間を作っているのだ。これは何を意図した結果なのだろう。東京なんかにくらべて施工はしやすそうではあるけど(おそらく私権の整理も簡単なのだろうし)、だからと言って広くても狭くてもコストが同じということはありえない。うむむ、しかしその経緯を説明する資料はネットから見つけることはできなかった。
ということで、まずはその施設の有りようが謎として残ったのだった。とっても不思議なんだ。
次は料金の支払い方について。料金の支払い方はSuica/Pasmo的なデポジットカードと、毎回払いである*4トークンに分かれる。これまたwikipediaに情報がある通りなのだけど、そこから漏れている重要な情報がある。
- 乗り継ぎをする場合、トークンは人間がいる窓口で買う事になる。
- トールゲートはメトロのラインごとに存在する。そして乗り継ぎがOKなトークンがあるのではない。
窓口のお兄ちゃんからトークンを二枚渡されたときにその意味が理解できず、「こはいかにしつることぞや」と問うたところ、「これはオレンジライン用、こっちはイエローライン用なんだ。間違えないでね」と優しく説明されて、ここで初めてデリーメトロのトークンのシステムについて理解を得たのだった。昔の東京の地下鉄の*5、一つの切符で乗り継ぎ路線のトールゲートを出入りするイメージに引っ張られ過ぎていたのだね。でもこっちの方が考え方としては筋がいい(乗客の利便性は幾分落ちるかもしれないけど、インドの考え方のほうがシステムの堅牢性とか低コスト性を保証しやすい)。合理的な割り切りっぷりなんだ。
そして車両。これはホントに普通の地下鉄。冷房が効いているのがありがたい。
乗っている人たちも普通...な人もいれば、違う国だなと思うところもある。車両の連結部分あたりにいきなり座り込んじゃう人とかね。でもそれ以外はワタシたちがよく知っている地下鉄の光景で、かなりの人がスマフォで何事かを行っている。あ、電話をするのは全くもってOKらしく、何人もかなりの大きさで通話をしてましたよ。
日本に戻ってから、メトロ乗ったよという話をすると、まあ大変じゃなかった?と仰る方が少なからずいらしてこれまたびっくりさせられた。どうやら「列車の外まで人がぶら下がっているインド的な鉄道」のイメージが強すぎて、メトロもあの調子なのかと思われたらしい。
ソンナワケナイヤロー。
四、五分間隔で規則正しく運行されるデリーのメトロは、首都の公共共通機関にふさわしく、清潔で安全な乗り物でしたよ。
ただ、なんであんなに施設がroomyなのかは不明。それの調査は今後の課題ということで。そして前回述べたとおりセキュリティの厳しさについてはびっくりさせられたけど、それはメトロに限ったことではなかったし、それを必要としている社会の要請があり、そしておそらくそれを受け入れる(こともやむなしと思う)社会の伝統もあるのだとして、そこはあんまり気にしてもシャーナイと思う。
デリーを訪れるひとは、一度はメトロに乗るべきだと思いましたことですよ。
長くなったので、交通事情の本丸、つまり路上では何が繰り広げられているかについては次のエントリーで。
追記1
メトロができた結果、道路の渋滞がどうなったのかというのもネットでは見つけられなかった。都市計画の話として非常に興味があるのだけれど、だれかご存じないかしらん。
あと大気汚染。今回でも十分味わい深い空気だったのだけど、メトロ前はもっとひどかったということなのかしら。それとも変わってないということなのかしら。これも誰かご存じないかしらん。
追記2
あ、アレを語ってなかった、なぜ空港からタクシーではなく、メトロに乗ったのか。
空港にはプリペイドタクシーというのがある。乗車前に窓口で行き先を告げて指示された料金を払うと、運転指示書と、そこまでの料金を支払った事を証する控え、計二葉の紙が渡される。それを乗り場に待っているプリペイドタクシーの運転手に渡すと目的地まで安全に(しかもコミュニケーション障壁に阻害されることなく)たどり着けるという仕掛けだ。
当初はこれを使うつもりだったのだけど、ネットで流れている情報に二派あって、あれは安心だ派と、いや最近は質の悪いのが増えてるからむしろ普通のタクシー使え派が、それぞれ自らの正しさを声高に主張する状況だった。どっちが2019年1月現在の実相に近いのだろう?日本を離れる前から、すでに不安な気持ちではあったのだ。
そしてこれはドコモ輝け*6な話なのだけど、ドコモの端末がサポートしているバンドはインドの3G/4Gとマッチしていないのだ。そのため、日本にいる間にアジア全域OKみたいなプリペイドSIMをアクティベートしておいて、インドに着いたときにはすぐに電話もインターネットもOKな状態するということができない*7。エマージェンシーコールもできない状態で、言葉も通じない(かもしれない)人と密室で 1 on 1 をするというのは、ワタシのリスクコントロールマインドと相容れない。安心ができる状態が確保できなければプリペイドタクシーに乗るのはやめよう、そんな気持ちが10時間のフライト中にどんどんと強くなってきていたのだ。
そして空港で。支払いを済ませて外の乗り場に向かうと、いるはずのプリペイドタクシーが全くいない。すでに19時を過ぎて暗くなってきていて、さすがのアタシも心細い。どうしようと立ち止まっていると、荷物を掴んで引っ張っていこうとする奴がでてくる(もちろん手は離させた)。
おお、これが噂の?
「オレはプリペイドに乗るのだ、もうチケットはあるのだ」と強めに言うと、「まさにそのプリペイドに案内するのだ」と男はいう。しかも案内する男自身は運転手ではなく、振り返ってすぐの、しかし停車場ではないところに止めてあった大きく車体がへこんだ車(プリペイドって書いてないぜ...)の運転手に向かって、プリペイドだってさ、みたいな事を叫んでいる。
まさに、これが噂の、旅行代理店にしか行かないタクシー?*8
0.5秒で決めました。
(根拠)
- 損得勘定:プリペイドにすでに支払った400ルピー < 本件の危険性
- 自分のスタイルとの整合性:人目のあるところでやり合う < 密室で 1 on 1 でやり合う
(結論)
- 400ルピーを(ドブに)捨ててでもアタシはセキュアさを取る。少々迷おうが、人目に担保される状況で落ち着いて考えられる方法にする。すなわちメトロだ。
こう書くと、すごく決断力がある立派な人みたいだ!。
こんな事もあるかもしれないとPlanBとしてメトロの事を一応下調べしていたこと、そして自分のスタイルに合わない方法(密室 1 on 1)で負けたときのダメージ、それらを踏まえて勘案しての即断だったのだけど、タクシー停車場からメトロに向かって歩き出すとき、そしてメトロのトークン販売所までの長い地下道を歩いているとき、相当に不安な、落ち着かない気持ちになっていましたですよ*9。
結局ホテルにきちんと入れたし、メトロも体験できたし、面倒な状況に合わずに済んだしで、インドに対してネガティブな気持ちを持たずに旅のスタートを切れたので「終わりよければ全て良し」かな。そしてその過程のいちいちで、ああオレってオレなんだなあと多々思ったのも面白かったし。
ともあれ、インドとのファーストコンタクトとして、また自分の「日本ぼけ」からの覚醒を促すある種のイニシエーションとして、ワタシは空港からメトロに乗ったのです。
追記2の追記
と、ここまで書いて財布に残しておいた金ドブのプリペイドタクシーのチケットを眺め直してみると...宛先にはSaketとしか書いてない。さて、このSaketというのは区相当の広さを持つある地域の名前だろうか、それとも駅の名前だろうか。
同じシステムで成田から目黒に向かうのを考えてみよう。目黒とだけ書かれたチケットを見て運転手はどこめがけて車を走らせるのだろう。目黒区、それとも目黒駅?。運転手がちょっとすごい人で駒場前あたりで「ここ、目黒区だから」と言ってワタシを下ろして去って行ったとき、ワタシは目黒駅にたどり着けるのだろうか?
無理だな。このチケットで「Saket」に向かったとして、降りたところが行きたい所であるような気がしない。プリペイドタクシーの最大のメリットは、言葉が通じなくてもなんとかなるところなのだが、しかしチケットに書かれている情報の粗さでは結局言葉が必要になるじゃないか。
さすがインドだ。危うかったぜ。