all things must pass

記録と備忘録による自己同一性の維持を目的とするものです。

10/27 Jerusalem

家で仕事をしながらランダムプレイで音楽をかけてたら、たまたまEL&PのJerusalemが流れて来てしまったところから今回の連想の漂流は始まる。


Jerusalemと言えばEnglish National Anthemにも推薦された歌であって(詳細は後出)、ロンドンオリンピックのオープニングでも合唱していた曲だ。そのLondon2012のオープニングセレモニーでは、オリンピックに出場する二人のランナーを巡るドラマ(映画)、邦題「炎のランナー」のテーマ曲も流れていた(サイモンラトル指揮だったそうです。あ、England出身だ)。「炎のランナー」、原題を「Chariots of fire」と言う。

今回もwikipediaから引用。

炎のランナー - Wikipedia

" Chariots of Fire " というタイトルはウィリアム・ブレイクの『ミルトン』の序詩"And did those feet in ancient time"からとられている。詩では "chariot of fire" と単数形。ブレイクがモチーフとしたのは、旧約聖書『列王記』においてエリヤが炎の戦車(Chariot)に乗って地上を見下ろすシーンである。

以下は詞の抜粋である。

Bring me my bow of burning gold!
Bring me my arrows of desire!
Bring me my spear! O clouds unfold!
Bring me my chariot of fire!

わが燃えたぎる黄金の弓をもて
欲望の矢を、槍をもて
雲よ散れ
わが炎の戦車をもて

 

 

Jerusalemの歌詞デスネ。そういや映画のラストでも聖歌隊によって歌われているし。

 

エルサレム (聖歌) - Wikipedia

にも

18世紀イギリスの詩人ウィリアム・ブレイクの預言詩『ミルトン』(Milton)の序詩に、同国の作曲家サー・チャールズ・ヒューバート・パリーが1916年に曲をつけたオルガン伴奏による合唱曲。
更にはラグビークリケットでのイングランド代表が国歌として使用しているなど、イギリス国内では様々な場面において特別な扱いを受けている作品である。
 

 

とある。してみると、ロンドンオリンピックのオープニング/エンディングは、イギリスの誇る商業音楽家が大量に出てくるというショーであると同時に、イギリス(というかEngland)が誇る詩人、William Blake祭りだったのだという気がしてくる。

しかしWilliam Blakeである。元々BlakeはThe Doorsがバンド名をパクッたネタとして私の中では認知されており、メスカリン上等の幻視派の詩人は確かにJim Morrisonの大先輩だろうよとは思うのだけど、だからこそオリンピックや(準)国歌、そして炎のランナーにジャストフィットな、あまりにもストレートに見えるJerusalemの歌詞には違和感がある。逆にBlakeとThe Doorsの地続きが一般常識なのだとしたら、そんなのをオリンピックのオープニングでフィーチャーして良いのかとも思う。

 

よし現実逃避で真面目に調べるかということで、しばしネットをうろついたところ、London2012を含めて解説をしてくれるヒント情報満載のページに行き当たった。

 

www.redicecreations.com

ちょっと引用する。

A cast of 10,000 volunteers will help recreate country scenes, against a backdrop featuring farmyard animals and landmarks like Glastonbury Tor.
The opening scene of the £27m ceremony will be called "Green and Pleasant", artistic director Danny Boyle revealed. 

 

「オープニングシーンは"Green and Pleasant"という」と美術監督であるDanny Boyleが明かしたと。
ふむふむ"Green and Pleasant"ね。

そして、同URLのWEBページ内を Blake で検索すると、コメント欄に素晴らしいことが書かれている!

Like almost everything to do with the Olympics, the art, music and thematic choices for the opening ceremonies are made with wide-ranging symbology in mind.

The selection of "Green and Pleasant" is an interesting one in that it not only speaks to the beautiful physical landscapes England possesses, but also indicates the long history of religion and mysticism in the British Isles, and gives a pointed nod to what many believe is the Zionist message contained in these events.

The "Green and Pleasant" theme is a line taken from William Blake's 1808 poem, "And did those feet in ancient time", from a collection of writings known as the Prophetic Books.
It is best known today as the anthem "Jerusalem", the music having been added by Sir Hubert Parry in 1916.

 

やはりBlake祭りである(っぽい)事が指摘されている。そうですか、Prophetic Booksですか。

そしてこの有益なコメントは、続けて本当に恐るべきことを語る。無学なワタクシとしては畏れ入るばかりとなる。

The poem was inspired by the apocryphal story that a young Jesus, accompanied by his uncle Joseph of Arimathea, travelled to the area that is now England and visited Glastonbury during Jesus's lost years.
The legend is linked to an idea in the Book of Revelation (3:12 and 21:2) describing a Second Coming, wherein Jesus establishes a new Jerusalem.

The Christian Church in general, and the English Church in particular, used Jerusalem as a metaphor for Heaven, a place of universal love and peace.

In the most common interpretation of the poem, Blake implies that a visit of Jesus would briefly create heaven in England, in contrast to the "dark Satanic Mills" of the Industrial Revolution.

 

ああ、そうですか、GlastonburyにJesusが来てたんですか。普通の人にはそういうのって思いつけない。まさに幻視派。
そういう文脈でJerusalemを見直す(読み直す)と世界の様相は一変する。何故かと言えば、London2012のメイン会場はGlastonburyだから。Danny Boyleは何もかも判っててBlake祭りを開催したんだな。

 

大英帝国の人々の間でこれらのことがどの位理解されているか、というのはワタクシの如きには見当もつかない。たとえばJerusalemはGlastonburyゆかりの曲だという事とか。その背後にヤク中の詩人が潜んでいるとか。そしてGlastonburyには、かつてJesusが訪れたことがあるとか(幻視)。
ソレコレが判る人は判れば良いし、判んない人は「炎のランナー」(Chariots of fire)からJerusalemの繋がりでEngland!! England!!(WellsとかScotlandは放置な訳ですが)と盛り上がってろという二面性のある演出をDanny Boyleは仕掛けたのだなと、5年も経ってようやく得心しましたですよ。Blakeが幻視者だと知っている人には違和感が出てくるのだろうけど、そこについては"Green and Pleasant"と言う手がかりを残しているので上手く調べろと(今回は親切な人が恐るべきことを 教えてくれた訳ですが)。

 

...こちらの妄想も広がりきったのでまとめよう。

 

幻視者のみた世界観がLondon2012(のセレモニー)のベースにあるのだとしたら、イギリスの誇る商業音楽家が大量に出てくるというショーの構成も一本の筋が見えてくる。アレは「妄想体質のヤク中が詩を垂れ流す」という伝統芸能の系譜が世界を席巻した事を理解しろというメッセージではないかと。であればこそのJerusalemスタートのオープニングセレモニーだったのではないか、と。
Chariots of fireは?アレこそが普通の人を謀るためのアイテムなのであって、Blakeもまた健全なのだ(だからBlakeテイスト溢れるセレモニーのデザインも安心なのだ)、という虚偽の主張を補強するための材料ではないか。
つまりDanny Boyleの企んだデザインはこうだったのではないか。普通の人にはEnglandの聖歌(Jerusalem)、Englandとオリンピックの感動的な関わり(炎のランナー)、Englandが誇るポピュラー音楽というViva Englandに見え、Blakeを知っている人にはかつてJesusが訪れた場所(Glastonbury)にその事を言祝ぐ詩が響き(Jerusalem)、その事を記した詩人(ヤク中)がモチーフである事を暗示し(炎のランナー)、その事を記した詩人(ヤク中)の末裔が世界を席巻したことを伝える(Englandが誇るポピュラー音楽の数々)というBlake祭りに見える。そのような二重の構成をもったショーを目論んだのではないか。

もちろんそれはワタクシの妄想であるのだが。

 


追記
おっと、大事なことを忘れていた。
EL&Pはどっちの積もりでJerusalemを演ったのだろうという疑問が残る。つまり普通の人が知るところの聖歌やありがたい歌としてのJerusalemなのか、それともWilliam Blakeを知るものとしてのJerusalemなのか。
EL&Pの健全さから考えて前者のような気がするのだが、さてどうなのだろう。どこかにインタビューなど残っていないものだろうか。