all things must pass

記録と備忘録による自己同一性の維持を目的とするものです。

12/14 ライブ二様;その1 武川雅寛さん@もっきりや 11/18

最近ためていた記録の整理の一環。11月、12月に行ったライブ二つのことを記す。

まずは11/18に金沢のもっきりやであった武川雅寛さんのライブから。

性質上、極私的なエントリが多いこのBLOGだが、今回はいつにも増して私的な内容であることを先に断っておく。

 

サポートメンバーは夏秋文尚さん。あとスペシャルゲストとして鈴木慶一さん(!)。

店内はぎっしり。地元客は...多分1/10くらい。あとは遠征組っぽい。なんとなれば去年の良明さん、おととしの武川さん、良明さん、鈴木博文さんのライブで見た顔が多数見受けられ、しかも去年の良明さんのライブなぞ金沢からの参加者はワタシと家人の二人のみであったからだ。

 

武川さんのライブなのに最初に登場するのは鈴木慶一さんであって、ピアノ弾き語りで「土手の向こうに」をいきなり歌い始める。声にのびがあり、すごく小さな声からすごく大きな声まで幅広いダイナミックレンジがある。どうした、慶一(敬称略)。今日はちょっとスゴいぞ。

そのうちに武川さんも登場。大動脈解離で声は変わってしまったけど、しゃべっている内容も、やっている音楽も、何も曲がっていないことに安心する。28日間意識が戻らなかった間、さまざまなものを見聞きしたのだという。

「あの傑作、未来世紀ブラジルをとったテリーギリアムが最近元気がないってことで、元気づけようとオレとジャックニコルソンとジョニーデップの三兄弟でアクション映画をとらないかと話を持ちかけて、でも始まってみたら一番暴れているのが長姉の加藤登紀子さんで」というような事を話される。きれいに言えば夢、医療関係者が言えばせん妄、そういうのをずっと見ていたのだそうだ。そしてそれをこっち側に持ってきて作ったのが今回のソロアルバム(※)なのだ。

題して「 a journey of 28 days」

natalie.mu

※武川さんご本人がどう思ってらっしゃるかは別にして、自然とソロアルバムと書いちゃう自分に気がついた。と思ったら、ナタリーの記事も「ムーンライダーズ武川雅寛、6年ぶりソロアルバム」とあるね。やっぱりソロでOKのようだ。よかった。

 

先に買って予習をしておくか、と思ったのだけど、そこはぐっとこらえて当日の物販で購入。

「ロックは物販だよ」という名言があるくらいだもの、せっかくライブに行くのだからそこで買おうじゃないか、と。(ちなみにこの金言、最初に聞いたのは難波弘之さんのライブで、ご本人のMCだったと思う)。

 

という訳で新曲はホントに新曲のまま聴くことに。

途中の曲では「道子先輩」(良明さんもそう呼ぶ。というか、そう呼ばないのはオレと慶一だけだと武川さんがおっしゃっておられた)がコーラスで参加。ムーンライダーズは80年からのファンだけど、道子先輩が歌っているのをみるのはもちろん初めて。感慨深い。

曲が次々と進むにつれて、武川さんの28日間を共有しているような「気持ち」になってくる。ここは上手い。せん妄のときの、縮尺が狂った世界の記憶を、私たちにも判る形に再構成して見せてくれているのだ。これはやれそうでやれない事で、それが出来ちゃうのはすごい。しかもその時はすごいと思わせないのもすごい。「いろんな楽器をいろんな風にこなす音楽家」という武川さんのあり方と何か関係があるのだろうか。

 

途中、はちみつぱいの曲もどんどん演奏する。

「塀の上で」は、まさか、まさかのオリジナルヴォーカルライン。どうした、慶一(敬称略)。今日はとんでもないぞ。1988年の再結成ライブ(というか正式解散ライブ)の時ですらオリジナルの通りには歌ってなかったのに、それから30年後には声が出るというのか、まさか蝋燭云々のような話ではあるまいな、等々と思うくらいの出来。

「月夜のドライブ」での武川さんの弾きっぷりもすさまじく、この日、ここにいなかったファンの人はほぞを噛むと良いでしょう。

ライブは可能な限り見ておけ、善し悪しは見た人だけが語れるのだ」というセオリーの正しさを痛感しましたですよ。

 

最後にやった新曲の「オリーブと太陽」がこれまた良かった。ここからは「個人の妄想」を書く。

a journey of 28 days は、あの世との境で体験したことがコアになったアルバムで、メインの曲はそこでの体験そのものなのは言うまでもない。カバー曲が入っているのは、どうだいオレはどのくらい変わったかい、という自他への問いかけの意味が強いだろうと見ている(全部新曲で埋められなかった、というのも5%位はあるかも知れないけど)。それこれ合わせて、聴く側からすると「還ってきてくれてありがとう」と思わせてくれるのだけど、ではこの「オリーブと太陽」の暗さ、少なくとも明るくなさはなんだろうということがひっかかってくる。

これは「今回は還ってこれたけど、でもいつかはまた行って、そのときにはもう還ってこないんだよ」という事なんじゃないかと思う。28日間を振り返り、そうだよなあ、オレたちはみんないつかはいなくなるんだよなあ、という理解に達したときに、ではオレがいなくなった後ものこる、オレのような樹を一本植えていこうじゃないか、そう思ったのではという気がするのだ。

鎌倉の海を見続けた男、湘南の荒鷲の締めくくりと考えると、自分のなかでは「オリーブと太陽」の明るくなさはしっくりくる。カッコいいぜ、武川雅寛

 

 

アンコールでは「いますぐ君をぶっとばせ」他。武川さんはこの曲が好きなんだなあ、とうれしい気持ちに。慶一さんがギター頑張っているのも印象的。

 

ライブが終わり、ステージから降りた武川さんたちは、カウンターの端に座るワタシの横を順番に通り過ぎていった。本当に距離0。その時、一緒にそこにいたという記憶が締めくくりとして残っていくのはもっきりやのとても良いところだ。ライブなんだから、いろんなものがない混ぜになった記憶が残らなきゃね。

 

結論としては「素晴らしいライブをありがとう、武川さん、そして夏秋さん、慶一さん」に尽きる。同じ日、同じ巡り合わせがないのがライブだけれど、同じようなこじんまりとした構成で、同じようなちいさな小屋で、そしてもっと新しい曲も交えて、また聴きたいと思いました。

ありがとう。

そして、ファンでよかったと思いましたことですよ。