今回のアンプアップグレードのためにネットのあちこちをうろついていると、少なくない人が機材変更時にオカルト現象が発生すると書かれている。まとめればこんな話で、次に何を買うかが決まると、戦力外通告を受ける機材がそれまで聴かせなかったようないい音を奏ではじめるのだそうだ。
まさかね。
という話を、新アンプの注文(6/17 アンプ更新 - all things must pass)をしたあとの夕食で家人にしていた。オーナー側の機材への思い入れがそういう疑似体験を作り出すのかねえ、とかなんとか。
当家は基本的には音楽をかけっぱなしであって、居住まいを正して聴くこともあれば、リビングに隣接したキッチンで作業をするときのBGMにすることもある。だからその日、食卓で家人と向かい合っている時も音楽を流していた。
それを担当する機材は、JBL4319と、今度リビングオーディオの戦力外通告を受けるアンプ、A-S801だ。値段を考えると悪いアンプじゃないと思うのだけど、もう少し中域の張りと、低域の解像度が欲しくなったのだ。
まあ、オカルトだよね。そういって次の話題に変わろうとしたときに、曲がAztec Cameraのtrue colorsに変わった。
もう何百回も聴いた演奏だ。この曲を出した*1シンディ・ローパーはスゴいと思うけど、名演でいうならこっちだ。フィル・コリンズ?ご冗談でしょう。録音のHiFi度はアズカメ版より全然高いけど(そう、残念ながらActec Camera版は録音の質が低いのだ)、音がゴージャスだったら良いってもんじゃないんだぜ。お前が歌うとただの良い曲で、胸を締め付けられるようなエモーションの高まりが全然やってこないんだ。
そして、それがやってきた。
いままでの聴いたことのない深みと悲しみをたたえたtrue colorsがスピーカーから流れてきたのだ。なぜtrue colorosなのか、どうしてrainbowなのか。ああ、そうか、これはLGBTに向けての曲なんだ。間違いない、判らせられてしまった。
家人に、これLGBTに向けたメッセージだよ、33年もかけて、いまやっと判った、と告げてネットを調べれば、やはりその通りだった。Lであった姉に向けての曲であり、同時にゲイアンセムにも選ばれている曲だ。
どうです、音の解像度は敵わないかも知れないけど、音楽に向き合わせる力ならワタシも大したものでしょう?
確かに、そのとおり。おかげでtrue colorsと本当につながることができたよ。
さて、これは歌詞への理解が飽和点に達した時がたまたまアンプの切り替え期と一致したということなんだろうか。おそらく、そうだ。最後にいい音がするというフォークロアのバイアスのせいでスピーカーから出てくる音にいままで以上に耳をそばだてているところに、ついに歌詞の意味が立ち上がるタイミングが重なり、そしてシンディ・ローパーの姉がLであるというどこかで聞いていてもおかしくない知識が脳内から引っ張り出され、あたかも奇跡がおきたように思えているだけなのだ。おそらくはね。
しかしオーディオというのが、自分という最大の謎から各種の驚異の事象を引っ張り出す神器としてあるのであれば(音楽が判った気になる、通じたつもりになる、というのは、まさに『自分という自分にも謎である存在に発生する驚異の事象』ではないのか?)、自分と神器との関わりが高まるとき、そこに何らかを『発見』するのはしごく当然だとも言える。
つまりA-S801は、神器と言えるくらいにワタシにいままで寄り添ってきてくれたということなのだ。
ありがとう、A-S801。
新しいアンプが届く週末からは、寝室でJBL530CHを優しく鳴らす仕事をお願いする。引き続き宜しく頼むよ。
*1:今回調べたら、実は作詞、作曲は別の人で、そこにシンディー・ローパーが補作したのだそうだ。詳しくはこちら。トゥルー・カラーズ - Wikipedia