all things must pass

記録と備忘録による自己同一性の維持を目的とするものです。

6/21 レムの『ゴーレム』

暗号通貨は先がない技術だと周りには言い続けてきました。
ちょっと考えれば判る事なんですが、そのちょっとを考えたくないのか、それとも極限に達するまでの期間に利ざやを抜くのが目的なのか、何しろ本質的には昏い話であるのですが、誰も、あんまりそういうことを言ませんでした。
でも、その弊害(というか暗号通貨の極限値がもたらす真の姿)がいよいよリアルになりつつあるので、エントリとして残しておくことにします。
 
 
まずは先がない技術だということの説明。
 
暗号通貨が破られないためには一つの大きな前提があります。それは
 
『誰も、他人を出し抜くほどの大きな計算パワーを手に入れることができない』
 
です。
Proof of workに報酬があるのは、その前提を成立させるために多くのプレイヤーが必要だからです。一山当てたい(利己的な動機を持つ、極めて人間らしい)人間が集まることで、誰もが他人を出し抜くことができない状況を作りだしていると見ることができます。これが本質です。すべてのプレイヤーが報酬を求めて利己的に活動をするが故に、加えてそれが人間の本質として安定的であるが故に、極めて安全な世界なのです。
 
そして、その活動に参加するための障壁はとても低いのです。
どこででも手に入る普通のコンピューターと、どこででも手に入るGPUがアリさえすれば、あとはマイニング用のソフトをダウンロードしてきて、電力を入れるだけ。それだけでマイナーの仲間入りです。電力がありさえすれば、貧乏な地域ほど(相対的な)実入りが大きい。やらないやつはどうかしているといえるでしょう。
だから、世界中でマイニングが始まりました。
 
 
 
ブロックチェーンすごい」とか「暗号通貨があれば世界が変わる」とか言ってるのは、車があれば世界が変わると言ってるのと同じことであって、車が用をなすには何が必要なのかという認識があんまり共有されていません。
 
では暗号通貨における油とは何か。それは利己的な動機に支えられて参入してくるマイナーであり、それを支える電力なのです。
 
 
さて、これは持続可能な行いなのでしょうか?
その答えはノーです。
電力がある限り、利益の追求を目的とするマイナーの参入も活動も止められません。
 
言い換えれば、それは文字通り世界が燃え尽きるまで止まりません。
 
 
では、最近見え始めてきた「リアルな弊害」の紹介を。
 

wired.jp

 

こういうのもあります。

 

www.gizmodo.jp

以下、記事から引用。

先日リリースされた中国政府の文書によると、中国の規制当局は仮想通貨のマイニングを「望ましくない」経済活動として禁止することを検討しているようです。

 

推計によると、世界中の仮想通貨マイニングのうち74%は中国で行なわれているとのこと。中国はさらに最も炭素量が集中している地域でもあります。Nature Sustainabilityの最近のレポートによると、仮想通貨マイニングは世界で300万から1500万トンの二酸化炭素を排出しているそうです。

 

 

いきなり極値に達する関数とか、途中から突如結果があばれる式とか、そういうものをを我々はすんなり理解することが難しいようです。複利計算ですら、人間の直感に反するようです。*1

だからという訳ではありませんが、暗号通貨の極限は見えにくいのかも知れません。


でもね。


「XXXXという性質を満たすことができるYYYYがあれば、あんなことも、こんなこともできる」という論は、別に非難されるべきではありません。

が、YYYYによって手に入るものの効用と、XXXXという性質を(持続的に)満たすということの間にはなんの脈絡もありません。効用とは独立して、XXXX自体の本質は問われるべきです。

 

さて、暗号通貨ってやっていけるんでしょうか?

 

 

そういう状況下でFacebookが相変わらず笑わせてくれます。

 

www.gizmodo.jp

 

Facebook、なぜ仮想通貨にするのかが理解出来ないという正当なツッコミの記事です。

以下は記事からの引用。
米GizmodoのMatt Novak:

FacebookはLibraを「powered by blockchain(ブロックチェーンで動く)」と表現しているんですが、結局のところLibraにどうしてブロックチェーン技術が使われているのかが謎なんです。Bitcoinのような暗号通貨とは異なり、Libraはリアルの資産に紐付いています。Libraはマイニングされませんし、生み出されるLibraにも上限(天井)はありません。ローンチ時点では分散化もされないようです。


Financial Times:

Facebookはグローバルな疑似バンキング・支払いネットワークを構築しようとしていると考えると、これをブロックチェーンを使って実現したいと思うはずはありません。資料の著者たち自身が指摘しているように、ブロックチェーンを使うと変動しやすくスケールしにくい通貨になることが示されているのです。中国のSNS向け巨大ペイメントサービス「WeChat Pay」(Facebookがグローバルレベルで競合しようと思っている相手)はブロックチェーンを用いていません。PayPalだって、Venmoだって使っていません。インターネットマネーは、ブロックチェーンを用いる必要なんてないのです。これがLibraが実際にはブロックチェーンマネーではないと思われる理由です。

 


米下院金融委員会のマキシン・ウオーターズ委員長 :

「過去のトラブルを考慮し、フェイスブックに対して、議会や規制当局が内容を精査し対応するまで暗号通貨(仮想通貨)の開発を停止することに合意するよう求める」

 

ウオーターズ委員長は同時に「仮想通貨マーケットには現在、投資家、消費者そして経済を強固に保護する規制の枠組みが欠けている」とも指摘した。そうしたなか、仮想通貨マーケットにフェイスブックが「問題」を抱えたまま参入してきたことを、「仮想通貨が引き起こすプライバシーや国家安全保障、サイバーセキュリティーに関連するリスクに規制当局が真剣になるべきだとのウエイク・アップ・コール(目覚まし)だと認識すべきだ」と主張し、仮想通貨規制そのものの必要性を強調した。

 

 

 

さすがというか、何というか。

暗号通貨を使うと言い張るFacebookの意図について、いろいろと想像したくなってきますね。

 

 

 

さて、あとはおまけ。

 

表題の『ゴーレム』は知性のありようについての一考察という小説です。レベルが異なる知性は隔絶されるしかないという絶望を語りつつ、しかしもしかしたら宇宙は知性に溢れているのかもしれない、という希望を残します。いや、でも通じることがないからやっぱり絶望なのか。

その小説を成立させている仕掛けは「知性の強大さは、その消費エネルギーではかられる」です。

マイニングで燃え上がっている地球は、離れてみていると知性が増加しているように見えるのかもしれません。

 

おお、そんなバカな。

 

 

 ゴーレムが載っている本はこちら。表題の虚数はどうでもよいのですが*2、ゴーレムは本当におすすめです。

 

 
 

*1:いろいろ言われてますが、地球温暖化に対する懐疑論もその類いかもしれません

*2:でも、レビューはプラスもマイナスも、表題作の虚数に集中している...。センスねえなあと心底思います。この本で語られるべきなのはゴーレムだけです。