all things must pass

記録と備忘録による自己同一性の維持を目的とするものです。

11/7 蟹

今住んでいるところは金沢の町中で、そこにはflat busという、金沢市運営の循環コミュニティバスが通っている。朝9時から夕方6時まで、町中の相当に細い道を縫って、15分間隔の小型バスが老人と、観光客と、朝が遅い会社員を運んでいる。本日は10時過ぎの便に乗って武蔵が辻まで。
そのバスに乗ったとたん、今日が11/7であることを再認識させられる。

金沢の年寄りは、初物の高っかい蟹を買って自家消費する。ご祝儀価格をものともせず初物にこだわるのは、初鰹と一緒だと思ってもらうと理解が早い(ただし、初鰹と違って、蟹は最初からうまい。うまくなってから解禁するという知恵があるのだ)。蟹は最近では手持ちひもがついた水色の発泡スチロール製保冷箱に入れられる訳だが、その水色の保冷箱を持った年寄りが町中をうろうろしていたら、つまりそれが蟹の解禁日のサインだ。その蟹箱を持った年寄りがバスに乗っていたのだ。
10時過ぎに蟹箱を持っているということは開店一番で初物の蟹を買って、そこからflatbusに乗ったということで、あのサイズの蟹箱なら、香箱ということはない、ずわい蟹だ。そのずわい蟹を持った年寄りは、材木町で降りて、路地に消えていった。


出社後は明日、明後日に軽井沢で開催する、若手にアレコレ討論してもらう社内イベントの準備。東京と北陸にオフィスが分散しているので、その中間地点である軽井沢に集合して合宿形式で実施するのだ。去年も、おととしもやった。その準備の整ったのが20:30過ぎ、さて、では蟹である。


以前は初物価格が一段落してから忘年会で価格が上がるまでの間、つまり11月の半ばから終わりまでに食べるのが賢いやり方だと思っていたのだけど、最近ちょっと考えが変わった。例えば値段がこなれる11月の終わりまで待ったとして、そのとき海が時化ていたら蟹は揚がらないのだ。確実にたべるなら、目の前にある蟹を掴むに如くはない。初物を求める金沢の年寄りは、それはそれで筋が通っていたのだと言える。食べ忘れや、食べ損ないがないように、食べられるチャンスを一回一回確実にクリアしていく、それが季節限定ものとの付き合い方だ、ということだね。

などなど自分にいいわけをしつつ、高値の初物蟹を食しに片町に向かう。ただし本日の懐具合はそれほど潤沢ではないので、すわいではなく香箱。あんな小さくて面倒なもの、自分でむいて食べようという気にならないというのもある。香箱は板前さんがきれいに始末してくれるところで食べるに限るのだ。ということで、某所へ。
高いんだけどと言い訳しいしい出してくれたその香箱、ミソも子もしっかり熟しているし、脚もみっちりしていて、甘い。禁漁期間があるからこそ、水っぽい蟹を食べずに済むのだ。Viva、人類の理性。サンキュー、蟹。そしてワタシ自身は香箱のうまさに箍が外れて飲む、飲む、飲む。あろう事か、もう一軒まわるという暴挙までして家に帰りついた時には1時目前である。


本日は、少しだけ昔の気分が戻ったようなことであった。